多様なインデックスを概観
大手インデックス・プロバイダーは、それぞれ数十万種類の市場インデックスを公表しており、それらが網羅するセクターや市場セグメントの数は数百万にも及びます。
なぜ、それほど多くのインデックスが必要なのかと疑問に思うかもしれません。
インデックスが増えれば市場の評価や動きを追うことが、より機動的に行えるようになります。例えば、アナリストはグローバル市場を動かしている要因を判断するために国別、セクター別のインデックスを利用でき、年金基金は、極めて限定的な運用基準を持つ投資運用パフォーマンスのベンチマークを見つけて利用できます。
年金基金は社会的責任のある会社に運用対象を限定することが可能であり、インデックス・プロバイダーは社会的責任基準に基づいて選択した企業のパフォーマンスのみを測定するためのインデックスを公表しています。また、インデックスが増えれば、投資商品の発行体が、関心の対象が異なる様々な投資家に役立つETFやその他のツールを設定する機会が拡大します。
インデックスのメソドロジーは、非常に分りやすいものから複雑なものまで多岐にわたり、株式、債券、コモディティなどの資産クラスを網羅しています。
株式インデックス
ほとんどの投資家は「インデックス」と聞くと、株式インデックが思い浮かぶのではないでしょうか。株式インデックスは 最も多く参照され、利用しやすい市場関連の指標です。
株式市場インデックスはまた、1世紀以上も前に初めて考案されたインデックスでもあります。現在では、投資家は考えられるほぼ全ての市場で株式インデックスを利用することができます。
伝統的ベータ・インデックス
株式インデックスの中には、市場全体に連動する多くのインデックスを含め、「プレーンバニラ」インデックスあるいは「伝統的ベータ」インデックスと呼ばれるものがあります。すなわち、そのインデックスの目的は、特定の選択条件や戦略で対象を絞ることなく、動きを追う市場価値の変化を正確に反映するということです。その中で最も範囲が広いのは、グローバル株式市場のパフォーマンスを測定するように設計されたインデックスです。例えば、 S&Pグローバル総合指数 は、25の先進国市場と22の新興国市場の株式約1万銘柄を対象としています。
対象範囲がより狭いインデックスを使用することで、特定の市場セグメントにピンポイントで照準を合わせることができます。例えば、S&Pグローバル総合指数のサブインデックスには、広範囲に及ぶ国別、地域別のインデックスや、エネルギー、ヘルスケア、公益企業などの動きを再現するセクター別、産業別のインデックスがあります。また、株式市場を企業規模で分類した大型株、中型株、小型株の各インデックスもあります。
セクター別インデックスのタイプ
テーマ別インデックス
上記以外の株式インデックスは、特定のテーマに着目しています。個別テーマに特化するため、伝統的ベータ・インデックスとは一線を画し、メソドロジーがより複雑になる場合もあります。
例えば、S&Pシャリア指数 は、シャリア(イスラム法)に基づき、イスラム投資家が容認できると考えられる銘柄のみで構成されるインデックスです。組み入れられる企業は、公表された一連の選別基準を用いて、シャリア法で容認しがたい製品やサービスを提供する企業や、財務指標(負債比率など)が一定の基準に満たない企業の株式を除外して設定されます。
また、ロベコSAM社と共同で開発した持続可能性に関連する一連のインデックスの一つダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・ワールド・インデックス, は、持続可能性を重視する世界中の企業を対象としたベンチマークです。同インデックスでは、経済、環境、社会を巡る動きがもたらす事業機会やリスクを追求または管理することによって、長期的な株主価値の向上を目指す企業を持続可能性があるとみなします。
債券インデックス
債券、世界中で多様なタイプを持つ資産クラス
債券には、米国財務省証券、米国エージェンシー債、地方債などの政府債、世界各国のソブリン債に加えて、社債も含まれます。社債には、短期債を含む投資適格社債やハイ・イールド社債、レバレッジド・ローン(バンクローン)、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)、転換社債、優先株、シャリア法を順守して発行されるイスラム債であるスクークなどがあります。
債券資産クラスのタイプ
債券の価格および利回りの動きを追うインデックスは、株式インデックスに比べると存在感が薄いかもしれませんが、債券インデックスを合計すると、連動対象となる証券のユニバースは、米国と世界の市場における銘柄数、時価総額のいずれにおいても、株式インデックスをはるかに上回っています。
例えば、S&P米国地方債インデックス は、投資家が保有する債券の総額が3兆7,000億ドルを超える広範な米国地方債市場を網羅しています(出所: SEC)。その市場の規模と多様性を背景に、投資ユニバースを満期、格付け、デュレーション、使用目的、発行州などの要因で規定され、的を絞った様々なインデックスが設定されています。
株式インデックスと同様に、債券インデックスは市場のバロメーターとして、またアクティブ運用マネージャーのベンチマークとして利用される場合があります。また、ETF、ミューチュアル・ファンド、デリバティブ(仕組債を含む)など、一般投資家が投資可能な商品の基盤として活用されることもあります。
コモディティ・インデックス
コモディティ・インデックスは通常、鉱工業製品や小売向け製品の原材料である消耗品の先物契約のバスケット価格の動きを追います。
インデックス値の変化は、原油から肥育用素牛、貴金属に至る様々な対象先物契約の価格の変化を概ね反映します。そして、個々の先物契約の価格は、対象となるコモディティの需給要因を含む各種要因の影響を受けて変動します。
インデックスの基本: コモディティ – スポット価格は先物価格にどのように影響を与えるのか
投資家は、コモディティ・インデックスに連動する上場商品を通じて、株式や債券と逆の動きをすることがある資産クラスにアクセスできます。インデックスが対象とするコモディティの先物価格は、株式や債券と同じような景気動向に対する反応を示すとは限らないからです。
S&P GSCI や ダウ・ジョーンズ・コモディティ・インデックスなど、全世界の市場を網羅する広範なコモディティ・インデックスは、コモディティ市場のパフォーマンスのバロメーターとして、また投資商品の基盤として活用されることもあります。また、貴金属などのコモディティ・セクター、銅や小麦など個別商品など、対象を絞ったインデックスもあります。特殊なものとしては、例えば、エネルギーの組入比率を減らす、またはコンタンゴのリスクを抑えるなど、特定の投資目的の複製を目指すインデックスもあります。
戦略別インデックス
戦略別インデックスはいずれも「個性的」です。単純にマーケット・リターンを測定するのではなく、配当収入の提供、リスクの管理、その他の市場要因を考慮した多様な戦略を模倣します。
戦略別インデックスの多くは、S&P500指数やS&Pグローバル総合指数の構成銘柄を利用するなど、伝統的な株式インデックスに基づいて構築されていますが、インデックスの特徴を決定付けているのは独自の要因です。
配当インデックス
ここ数年、配当戦略に対する投資家の関心が大幅に高まっており、配当インデックスの普及・拡大につながっています。現在では、グローバル・レベルで、またアジア、欧州、北米、中南米の主要市場を対象に、様々な特徴を持つ配当インデックスが設定されています。
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全ての配当インデックスは、配当支払いのある株式という明確に定義されたユニバースを網羅していますが、ユニバースは必ずしも同一ではなく、全てのインデックスが同じ手法を使用しているわけでもありません。例えば、現在の配当利回りが高い銘柄のみを組入対象としているインデックスもあります。他にも配当実績を重視し、例えば、一定期間連続で増配している銘柄のみで構成するインデックスもあります。また、連続配当と配当成長率の両方を組み合わせたインデックスもあります。 閉じる
スマート・ベータ指数
投資運用のパフォーマンスに影響を及ぼすファクター(要因)は様々であり、時間の経過とともにリスク・リターン特性の改善につながる要因もあれば、逆に悪化させる要因もあります。ファクター指数(スマート・ベータ指数と呼ばれることもあります)の選択・加重に際して、
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インデックス・プロバイダーは通常、低ボラティリティまたは本質的価値(イントリンシック・バリュー)など、構成銘柄が長期的に示してきた特徴に注目します。
例えば、低ボラティリティ・インデックスでは、選択対象のユニバースに比べて価格が長期的に安定している株式に注目するため、長期的にみて相場下落局面で値下がり幅が小さい銘柄が組み入れられます。
また、異なるファクターを組み合わせて構築されるマルチ・ファクター戦略インデックスもあります。例えば、時価総額加重インデックスを上回るベータの達成を目的とするS&P GIVI グローバル(グローバル・イントリンシック・バリュー指数)は、親インデックス(S&Pグローバル総合指数)の中から低ボラティリティ株式を選別し、本質的価値で加重します。その結果、リスク調整後ベースで長期的に市場をアウトパフォームしてきた2つのファクターを反映するインデックスが構築されます。 閉じる
リスク・コントロール指数
広く分散化された市場インデックスは、非システミック・リスク、すなわち個別企業に関連するリスクを捉えることを目指しています。しかし、市場インデックスは、市場自体のボラティリティ、すなわちシステミック・リスクに依然としてさらされています。
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市場リスクを限定する方法の一つは、資産を現金で保有し続けることです。そのため、インデックス・プロバイダーは、S&P 500日次リスク・コントロール指数のように、株式と現金の配分を調整することでリスク・エクスポージャーを特定の水準に導く革新的な戦略指数を開発しました。 閉じる
アセット・アロケーション指数
アセット・アロケーション指数は、異なるリスク水準に対応した複数資産の組み合わせのパフォーマンスを反映するためのインデックスで、通常は、株式と債券の両方を対象としています。アセット・アロケーション指数は通常、共通のメソドロジーに従って構築された指数シリーズの形式で提供されます。
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例えば、S&Pターゲット・リスク指数は、目標とするリスクを、保守的なものから積極的なものまで、特定の水準に設定したエクスポージャーを測定できるような資産クラスの組み合わせで構成されています。
アセット・アロケーション指数の一つのタイプであるターゲット・デート指数は、退職日といった目標日、すなわち最終日が近づくにつれてリスク水準が低下するポートフォリオを測定するため、時間の経過とともに構成銘柄を徐々に調整します。
こうした戦略別インデックス連動型投資商品(特に、ETF)を使うことで、アセット・アロケーションの意思決定は簡素化されます。これらの投資商品は401kなどの退職貯蓄口座で多く利用されており、大学貯蓄口座の運用手段の選択肢にもなっています。ただし、これらの商品はインデックスのパフォーマンスに連動しているため、プラスのリターンは保証されていません。大幅な相場下落局面ではなおさらです。 閉じる
経済インデックス
市場パフォーマンスを測定する指数や、戦略的な目標を達成するためのインデックスに加えて、非常に特殊な分野を対象に構築されている数多くの指数によって、インデックスの設定範囲は大きく拡大しています。
例えば、株式市場のボラティリティ見通しの変化を追う CBOEボラティリティ指数®(VIX®)のように、オルタナティブ資産クラスに焦点を当てたインデックスもあります。実際の市場パフォーマンスの水準を反映する伝統的なインデックスと異なり、VIXは株価が短期的にどう動くと予想されているかを反映することを目指しています。
全く異なるタイプのインデックスの例としては、米国の一戸建て住宅価格のベンチマークである S&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数があります。米国経済にとって住宅市場は重要であることから、同指数は代表的な不動産価値の変化に関する重要なデータを提供していることになります。
同様に、米国経済に多大な影響を及ぼしているのが医療費です。実際、医療サービス・プロバイダーと監督当局は価格動向を把握し、伸び率を予想し、将来の保険料率を設定するために、 S&Pヘルスケア・クレーム指数といったインデックスのデータを必要としています。
こうした特殊なインデックスは多岐多様にわたっているものの、重要な特性は伝統的インデックスと変わりません。すなわち、ルールに基づいて構築され、透明性が高く、メソドロジーとデータは公表されています。そして、ベンチマークとして活用され、調査データを提供し、経済状態を測定し、一部のケースでは、金融商品の基盤になるなど、主要な役割の多くも伝統的インデックスと共通しています。
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